フランス柔道調査視察事業報告
3.フランス柔道の歴史
フランス柔道の歴史は古く、1890年には、マルセイユで嘉納治五郎師範が柔道のデモンストレーションを行っている。当時フランスではレスリングが主流な格闘技であったが、海軍の軍人らが日本で柔道を学んだ後フランスに帰りレスリングと異種格闘技をした。そこで柔道が善戦し評価を得たことで、技術者や上流階層から柔道が普及し始めた。
柔道が普及していく中でフランスでは専門的な指導者が必要となり、日本に派遣を依頼して1935年に川石酒造之助先生を招聘した。それにより柔道がフランスのみならず近隣諸国まで急速に広まった。その後、川石先生に招かれ渡仏した粟津正蔵先生ら多くの日本人がフランスで指導にあたり組織の充実、強化体制の確率などに尽力した。国も柔道人口増に伴う人気スポーツとして積極的な支援をするようになり、フランスは今や日本と共に、世界柔道のリーダーとしての位置を占めるようになった。
フランスでは指導者を育成するために1964年に国家試験制度を設け、その資格がなければ指導できないシステムになっている。柔道がここまで発展したのは、嘉納師範が説かれた教育の「精力善用」「自他共栄」の思想がフランス国民に感銘を与え、広く根付き発展したからである。
意見交換を前にフランス柔道連盟ルージェ会長(中央)から歓迎を受けた
4.フランス柔道の組織
ミシェル広報統括責任者から説明を受ける
柔道人口は約55万人で、今年は55万8千人になる見込みという(日本は約20万人)。この数は柔道連盟に年会費として登録料32ユーロ(約3600円)を支払っている人の数(連盟の収入は約80%が登録料、国からの補助が12%、8%がスポンサーからの収入)で、18歳以下が85%と圧倒的に多い。男性が80%、女性が20%の割合で、女性の伸び率が年々高くなってきている。低年齢層は1、2年で辞めるケースが多いが、次の低年齢世代が入れ替わって入会する。また、進学などの年齢に当たる15、6歳になれば辞める人も多いという。
しかし、これまで55万人以上の会員数をコンスタントに保てているということは、フランス柔道連盟の熱意ある取り組みと併せ、他のスポーツにない「躾・教育」を重んじる柔道が広く国民に受け入れられていることであり、それがそのまま数字に表れている。
フランスは日本とは組織の形態が異なり実業団チームはなくクラブ組織(道場など)で、その数は5000を超える。組織の構成は国内に5つのゾーンを設け、その下に34カ所の各地方(日本の府県レベル)の連盟、その下に90カ所の連盟(各市)を設けている。国内で認定された指導者は160人で、80人は国(公務員)、80人は連盟(職員)に属し、それぞれの所属先から給料が支給されている。指導者は世界で活躍できる選手の養成をすることと、選手をトップレベルに持っていくことを最大の目的としている。
黒帯保持者は国内に14万人いるが、3万人しか登録していない。現在、未登録の黒帯の方々をできるだけ多く登録してもらえる方策を検討している。
また、フランスは国がスポーツを管理しているので、国に進言できる人材をメンバーに加えるよう働きかけをしていきたいとの由。
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